Abox People Vol.1 「写真家 松龍 スペシャルインタビュー」

interview Vol.1

写真家 松龍 スペシャルインタビュー

聞き手:高崎 勉 (Abox Photo Academy 塾長)

Abox Photo Academyの講師である写真家「松龍」こと松下龍士氏による個展「宙と墨」が、2017年6月9日からSony Imaging Galleryにおいて開催されます。会期を目前に控えた松龍氏にお話を伺いました。

高崎 : 今日はお忙しいところありがとうございます。個展開催まであとわずかとなりましたが、準備は終わりましたか?

松龍 : はい、プリントは全て終えて額装の手配もしませましたし、あとはオープンを待つのみです。

高崎 : 会期中にトークイベントをなさるということで、その第2部では光栄なことに僕がお相手をさせていただくことになりました。その展示作品「宙と墨(そらとすみ)」の詳しいお話は会場でじっくり掘り下げるとして、今日は松龍さんの活動全般のお話から現在に至る経緯を伺いたいと思います。

 

松龍 : はい、よろしくお願いします。

高崎 : 先に僕と松龍さんの出会いを説明しておくと、僕が主宰する写真講座「Takasaki Seminar」の門を叩いてくださったことから始まりましたね。そして僕が松龍さんの作品のテクニカルな部分をアドバイスする関係になりました。

松龍 : そうでしたね。出会ってすぐに高崎さんの「Dream」という作品からインスピレーションを受けて、「くうをみる」という最初のシリーズ作品をまとめました。

写真との出会い

高崎 : 前から一度聴きたかったんだけど、そもそも写真を始めた経緯ってなんだったんですか?

松龍 : 祖父が中判の蛇腹式のカメラを持ってたんですよ。そのうちの一台くれたんですね。

高崎 : え、いきなり中判(ブローニー)?

松龍 : メーカー名とか覚えてないんですけど、それで撮り始めたのがきっかけです。写真というよりカメラが好きで撮りました。で、祖父は現像とプリントも自分でする人だったんですが、どうも引き伸ばし機は手作りしてたみたいなんですよね。で、それも「あげる」って言われたので始めたんです。

高崎 : 何歳頃の話ですか?

松龍 : 小学校5年生くらいだったかなあ。

高崎 : えっ、小5で中判カメラに引き伸ばし!?

松龍 : そう、だからお金ないじゃないですか。写真屋にプリント出すとお金かかるから、薬品買ってきて現像して。焼きつけるのも印画紙さえ買ってくればいいので、。

高崎 : いや、普通の小学生は薬品買わないで、現像とプリントはDPE屋さんに出すでしょう。(笑)

松龍 : だからそこが面白かったんですよ。撮るだけというより、撮った後に現像してフィルムから像が出てくる、それを焼きつけるといった工程がめちゃくちゃ面白いから。、、で、当然暗室なんかないんですよ。押し入れとか、地下室とかね、とにかく夜に作業するっていう。暗くなんないとできないから。

高崎 : 大体、僕の感覚では、そういうことに興味を持つっていうのは高校生、もしくは大学生なんですけどね。周りでそんな友達は他にいました?

松龍 : 誰もいない。で、写真部っていうのがあって、一人、二人はいた。

高崎 : 都会の子ってそうだったんだ。そもそも小学校に写真部があるだなんて。

松龍 : だけどほぼ、その人たちとは群れてないので、カメラ屋さんに行って聞いてましたね。ヨドバシとかさくらやといった量販店は昔はカメラしか扱ってなかったから専門的なものも扱ってて、薬剤もたくさんあったし、フィルムもロールで買って「こうして詰めて使うんだよ」って店員さんが教えてくれたから、そこで習った。。

高崎 : じゃあ、その時期にかなり基礎は身につけてたんだ。

松龍 : いやあ、でもね、当時は理論なんかないんですよ。NO理論。(笑)何分か液に漬ければ絵が出てくる。みたいな。時間かけすぎて真っ黒になっちゃったとか、もちろんインターネットもないし、教本もなかったから、やってみるのみ!みたいな。

高崎 : 実験を楽しむみたいな感じだったんだ。

松龍 : そうですね。

高崎 : へえ~、それはびっくりしたな。てっきりデジタルになってから写真を始めた方だとばかり思ってました。、僕みたいなカメラ屋の倅以外に子供の頃から暗室作業やってた人が居たなんて。

松龍 : で、中学生くらいまではそのカメラ使ってて、それから親父のお古のコンンパクトカメラをもらったんだったかな。ハーフサイズのカメラも使ってた。それは36枚取りの倍の72枚数撮れるんで、とにかく金がなかったからたくさん撮れるのは有難かった。(笑)

高崎 : 普通は35mmから使い始めて、画質を求めて中判に移行するわけですよ。それが逆で中判サイズから入ったわけでしょ。それが35mmカメラになってしかもハーフサイズ。自分でプリントするとなると、ネガがサイズダウンして物足りなくなったとかはないんですか?

松龍 : あんまりそこは感じなかったんだよね。

高崎 : 引き伸ばし機はおじい様の手作りだったんですよね。

松龍 : そう、だからあちこちガタがきてて、細かいことはこだわれないから、画質とかそういう
ことは元々追求できなかったというか。

高崎 : とにかくその工程が楽しかったわけですね。じゃあ、そのまま写真は止めずに続けたので
すか?

松龍 : やり続けてはいたんだけど、やはり疎密があるわけで、部活はサッカーをやってたし、年頃になれば女の子やバイクに興味が行くし、、、でも撮らないわけじゃないんです。だから、一番濃く写真やってたのは小中学校の頃ですね。大人になってからはいろいろな趣味があるから傍に写真があるっていうスタンスでしたね。

高崎 : なかなか他では共感してもらえない話だけど、写真環境は僕と似てたんだ。

松龍 : で、時間が経って世の中デジタルに切り替わるじゃないですか。その時に逆に写真を撮ることを辞めたんですよ。なんかもうデジタルっていうものが全然魅力を感じなくて。このまま写真ってなくなっていっちゃうんじゃないかなと。

高崎 : まあ、それはプロとしてやってる僕も感じていたことなんですね。

松龍 : 他にやることもあるし、写真はもういいかと。、、で、しばらく経って転職して、SONYに入ったわけです。そこでデジタルだから大して写らないかもしれないけど、せっかくだからと自社のカメラを買ってみるかという気分で入手したんです。そしたら意外に撮れた。(笑)結構いい色出るじゃん。って。それから旅行に行く時とかにちゃんと持っていくことになった。その時気づいたんだけど、「ちょっと待てよ。自分はちゃんと写真を習ったことがないじゃん」って。「ずっと我流でやってきてるけど、このままでいいんだろうか?」っていう気持ちになり、そこから写真教室通いが始まったんですよ。

高崎 : その写真教室に通われる中でアート作品に目覚められたということですか?

松龍 : そうです。

影響を受けたのは生物学者

高崎 : 経歴にあったんですが、「チャールズ・ダーウィン、リチャード・ドーキンス、長谷川真理子らに哲学的影響を受け、、、」、と書いてあります。ダーウィンは僕も知っていますが後の二人も学者ですか。

松龍 : そうです。生物学者です。生き物とはこう進化しているのだ。ということを述べている。自分達の行動は進化に基づいて成り立っているといったことを学者として言っている方達です。書物を読んでいたら、そうだったのかという気づきがいっぱいあるし、僕が世の中を見る物の見方をここで決定的に示唆してもらったっていう出会いでした。

高崎 : 元々、松龍さんは生物学を専攻なさってたんですか?

松龍 : いえ、まったく。僕は土木工学科なんでcivil engineer(土木技師)なんですよ。トンネルやダムを作ってる同級生がたくさんいますけど、僕も図面を引いたり設計したりという学生時代でした。先に出会ったのはドーキンスの著作です。ダーウィンの理論を裏付けた人ですね。そこで遡ってダーウィンの本を読み漁ったわけです。「種の起源」って、みんな名前は知ってると思うけど、中身はくどくど書いてある厚い本なんだけど、それを読み、長谷川真理子はダーウィンの考え方を動物行動学的に見て「どうして猿は群れるのか」とか、見た目からダーウィンの進化論を裏付けていった方です。そこもすごく面白かった。

高崎 : そういう方々が松龍さんの作品に影響を与えているということなんですね。

松龍 : 作品を撮ろうと思う時にテーマを探す時の根幹としてダーウィニズムが必ずどこかに入りますね。

高崎 : 初めてお目にかかった当初から松龍さんには独特の哲学や文脈があるっていうことは感じていましたけど、次々に発表される作品からは、松龍さん個人の気配とか、匂いのようなものが伏せられている気がしたんです。無いわけじゃ無いんだけど、現代アートに求められる時代性、つまり、なぜ今、松龍さんがこの作品を出すのか、そういったことさえも意図的に隠しているような気がするんです。。それは松龍さんが写真作品を発表する目的意識と関連があるんでしょうか

松龍 : あんまり時代は意識してなくて、むしろ逆ですね。普遍性。どの時代にも人が生きていれば必ず疑問に思う「なぜこんなに生きるのが苦しいのだ」とか、反対に「綺麗だね」「楽しいね」と思うこともそうなんですけど、そっちですよね。表現したいのは。僕という個を前面に出すというより、誰にでもあるもの。「世の中が生き辛いね。」みたいなことってたぶん現代だけの話じゃないだろうし、人類始まってずっとそうなんどろうって思うんですけど、そういう中でじゃあなぜ人は生きていくんだ。とか、人の存在って一体なんなんだ。っていうことを考えて、やっぱり星の中の一部としての存在なんだよ。って。禅とか、そういうものにつながっていくんじゃないかと。

高崎 : なるほど。それで腑に落ちました。ところでギャップイヤーってご存知ですか?

松龍 : いいえ。

高崎 : 日本人って幼稚園に入ってから必ずどこかに所属しているのが当たり前ですよね。そうでないと落ち着かない、または世間の目が厳しいってあるでしょう。ヨーロッパにはギャップイヤーっていう習慣があって、高校や大学時代に何処にも属さない期間を持って自分の道を探したり、その入り口が見えない人はボランティアしたりする時期があるそうなんです。雑学として聞いたことがあるんですがダーウィンはそのギャップイヤーに当たる期間に船に乗ってダーウィン島を見つけたんだって。ただその期間が9年くらいあったとか。

松龍 : へえ、、それは知りませんでした。

高崎 : 僕の中では、ダーウィンが何年もかけて何かを探して彷徨ってる様子が松龍さんと重なってたんですよ。

松龍 : あ~なるほどね。そこはね、その通りだと思いますよ。探しているし、根幹に辿り着きたい。本質的なところに辿り着きたいっていう欲求とそれがわかった時に写真で表現したい。それを。

高崎 : なるほど。

「宙と墨」

高崎 : そこで今回の「宙と墨」のお話に移ります。被写体は電線と書ですよね。電線は僕も好きなモチーフですが、その地方の文化も表れて面白いですよね。最近は地中に埋められていくし、次第に消えていくものだとしたら時代を切り取る記録性もあります。

松龍 : そうですね。さっき時代性の話をしましたが、これ、撮り始めると場所によって電線の表情が全然違うんですよ。下町の人の営みが密集してるところはアバンギャルドな電線たちがたくさんいる。

高崎 : なるほどそうですね。

松龍 : さらに電話線以外にもケーブル放送とかいろんな工事業者が入るからごちゃごちゃになるんですよ。で、そっちの方が断然面白い。

高崎 : この作品でようやく松龍さんはスタジオの外で撮ったものを発表されたわけで、ここでやっと時代の匂いが見えてきたんです。

松龍 : そうですね。確かにそれはそうで、整備された新興住宅地の方へ行くともう本当に綺麗に整えられて多分、線を引く順番も設計されちゃってるんでしょうね。まあ、素っ気無いもんなんですよ。だからそこが移り行く時代が写ってるかもしれないですね。あと何年かしたら何にもなくなっちゃうかもしれない。

高崎 : 実は僕自身も作品の発表はスタジオで撮ったものが続いて、次第に風景やスナップに移行していきました。もちろんコンセプチュアルに進めていったんだけど、その経緯も僕と松龍さんは被るものがあって奇妙な縁を感じていたんです。でもそれは偶然じゃなくって、世の中で起きたことだったり、受け止めざるをえないものだったりが同じだったからなんだろうなって思います。同じ時代に生きた作家だからこそ起こりうる現象なのでしょうね。
電線に対して描かれている「書」の部分はどなたが書かれているんですか?

松龍 : それはある前衛書家の作品です。もうお亡くなりになっている方なのですが、その息子さんと元々知り合いだったんです。作品を拝見できる機会が中々なかったんですが、お願いしてやっと触れることができたんです。

高崎 : 書の方は描かれた紙の質感まで出ています。電線の方は曇り空をキャンバスに例えているところが面白いですが、それを交互に見ていくと雲のディティールが紙の質感と交差して面白いですね。

松龍 : そうなんです。

高崎 : 当然、展示作品はその辺りの雲や和紙のディテールをしっかり表現できるプリントにこだわられたのですよね。

松龍 : ええ、もちろんです。いろいろ試しましたが紙はSihlというメーカーの紙を選びました。

高崎 : なるほど。僕個人は初期の試作段階で一度拝見しただけなので、最終的に到達した作品を会場で拝見できるのが楽しみです。

松龍 : 実は前にこの作品の一部を展示したことがあるのですが、その時は印刷機材のせいもあっ
て苦労しました。ですが今回は納得できるプリンタで徹底的にこだわりましたから。

高崎 : この作品はウェブや印刷物では伝わりきらないでしょうね。是非、会場でオリジナルプリントをご覧いただきたいです。

松龍 : はい。よろしくお願いします。会場でお目にかかれることを楽しみししています。

 

松龍 個展「宙と墨」/matsuryu Photo Exhibition [Sky & Ink]

2017.6.9[Fri.]~6.22[Thu.] 11:00~19:00 (入場無料)
Sony Imaging Gallery / ソニーイメージングギャラリー銀座
〒104-0061 東京都中央区銀座 5-8-1 銀座プレイス6階

【松龍氏によるギャラリートークを開催します。】
2017.6.17(Sat.) ・13:00~13:45 神島美明氏(写真家) ・16:00~16:45 高崎 勉氏(写真家)